放浪(ほうろう)は、定住する場所を持たずに各地をさすらうこと、あてもなくさまよい歩くこと。さすらい、流浪(るろう)、彷徨(ほうこう)とも。
定義
関連する言葉の「浮浪」と比較すると、「放浪」の定義はより明確になる。
- 「放浪」
- 定住地を持たず、各地を転々と回ること。
- 「浮浪」
- 住所不定で定職もなく、さまよい歩くこと。
放浪では「住み家が定着しておらず」移っていく点が重要であり、例えば放牧しながら各地を転々とする遊牧民などは「流浪(放浪)の民」などと呼ばれる。住む場所が定まっておらず、生計を立てるための「定職もない」状態でさまよい歩く行為だと「浮浪」(近現代でいうホームレス)になる。定住地や定職といった条件を特に含めずに、単純にさまよい歩く行為は「徘徊」と呼ばれる。
英語圏には"vagrant","vagabond","rogue","tramp","drifter","wanderer"ほか、放浪者と訳されうる単語が幾つかあるが、これらの定義は日本語の放浪と完全に一致するわけではなく、前後の文脈次第で「浮浪者」や「徘徊者」を指すケースもあるため、翻訳に際しては留意が必要である。
概要
古来より遊牧民は牧畜生活のために放浪を繰り返してきた歴史がある。単に生活のためではなく、人生の意味を求めて放浪をする場合もあり、世界宗教の多くが放浪の伝統を持っていたり放浪に言及している。ヒンドゥー教、仏教、ジャイナ教、イスラム神秘主義などの宗教文書に書かれているように、東アジアや南アジアの一部の国では歴史的に放浪が宗教生活(悟りを開く道)と関連づけられてきた。一般的な例として、サドゥー、比丘、沙門、ダルヴィーシュの伝統がある。アジアのみならず中近東、アフリカ、ヨーロッパでも、グノーシス主義やヘシカズムなどで放浪が苦行の実践として現在も続いている。キリスト教でも、使徒パウロなどの布教活動(伝道旅行)が放浪生活だと見なされている。
各地を転々して暮らす放浪は、自治集落での定住を基本に暮らす人々にとって異質なものに映るため、迫害の対象となることもあった。よく知られている例がロマに対する迫害で、第二次大戦中にはポライモスと呼ばれるロマ絶滅政策がナチス占領地域で行われていた。現在でも彼らの定住を快く思わない差別的な扱いがあると、アムネスティー・インターナショナルは報告している。
文化面では、自らの放浪体験そのものや各地の風情を文学作品として書きあげたり、絵画や音楽作品で表現する例が国内外に見られる。職業を転々としつつ住み家も貧しい木賃宿から各地の貸間を渡り歩く、林芙美子の自叙伝的な『放浪記』は幾度も舞台、映画、テレビドラマになっている文芸作品である。
放浪をした有名人
日本
- 西行
- 松尾芭蕉
- 井上井月
- 尾崎放哉
- 種田山頭火
- 山下清
- 間宮純一
- 山田喜代春
- ダモ鈴木
- 加藤拓人
- 宮川アジュ
フランス
- アルチュール・ランボー
イタリア
- ジュゼッペ・ガリバルディ
シンガポール
- マイア・リー
作品
「放浪」を主題にした作品のおもな一覧である。
- 放浪 (小説) - 岩野泡鳴の長編小説(1910年)
- 放浪記 - 林芙美子の長編小説(1930年)
- さすらいくん - 藤子不二雄Ⓐの長編漫画(1973年~1981年)
- 彷徨 - 小椋佳のアルバム(1972年)
- ほうろう (曲) - 小坂忠の楽曲・アルバム(1975年)
脚注
参考文献
- 『青年は荒野をめざす』、五木寛之、文春文庫、文藝春秋、1974年1月 ISBN 4167100010
- 『黄泉の犬』、藤原新也、文春文庫、文藝春秋、2009年12月4日 ISBN 4167591057
関連項目
- さすらい (曖昧さ回避)
- 漂流
- 旅
- 巡礼
- 遍歴
- 武者修行
- 吟遊詩人
- 門付
- 無宿 - 宗門人別改帳から外された者(江戸時代)
- 熟練職人
- ゲゼレ
- ジャーニーマン
- ノマド
- ホーボー
- ワンダーラスト(旅行願望、放浪願望)
外部リンク
- デジタル大辞泉『放浪』 - コトバンク
- 大辞林 第三版『放浪』 - コトバンク
- 散歩から流れ者まで...言葉でたどる放浪者の概念




